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その時どうなる?GDP1,000兆円時代の日本株

2024年4月22日

1.デフレ脱却でレンジを切り上げる日本の名目GDP
2.バフェット指数から考える日本株の長期展望
3.増益ペースから考える日本株の上昇ポテンシャル

岸田文雄首相は3月18日に開催された参院予算委員会で、「今後の努力で21世紀前半の名目国内総生産(GDP)1,000兆円の目標実現が視野に入る」とコメントしました。裏金問題による支持率低迷に苦しむ首相のリップサービスにも聞こえますが、ここもとの経済指標を見ていると、あながち絵空事ともいえないように思われます。株価と深い関係があるとされる名目GDPが、仮に2050年までに1,000兆円に到達した場合、日本株にはどんな影響があるのでしょうか。具体的な数字で検証してみたいと思います。

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1:デフレ脱却でレンジを切り上げる日本の名目GDP

■日本のGDPの拡大が続いています。「おいおい、そんなことはないよ」とのお叱りを受けそうですが、ここで取り上げたいのは普段ニュースで報じられるインフレ調整後の「実質GDP」ではなく、インフレ調整前の「名目GDP」の推移です。昨年の中盤以降、日本の実質GDPは冴えない推移が続いています。一方、企業の売上や利益、そして株価と関係が深い「名目GDP」は順調な拡大が続いており、実質GDPとの乖離が鮮明になっています(図表1)。


■コロナ禍からの経済再開や為替市場で進む円安ドル高が、ここもとの日本経済の堅調さの背景にあるのはご存じの通りです。そして、「名目GDP」と「実質GDP」との乖離が鮮明になってきたのは、日本でもインフレ傾向が鮮明になってきた2022年以降になります。つまり、緩やかな経済成長と適度なインフレが同時に生じることで、ここもとの名目GDPの拡大がもたらされている、と見ることが出来そうです。

高水準の賃上げで高まる日本のデフレ脱却の可能性

■こうした名目GDPの拡大は、今後も継続する可能性が指摘されています。連合によれば、2024年春闘の賃上げ水準(4次集計、4月18日現在)は前年比+5.20%と33年ぶりの高水準となりました。これまで日本経済は、長らく物価下落と所得低迷が連鎖する悪循環に苦しんできましたが、「賃上げ」と「物価上昇」の好循環が起こることで日本経済もようやくデフレから脱却し、世界の他の主要国と同様に名目GDPの拡大が続く「普通の国」となる可能性が高まってきました。

2:バフェット指数から考える日本株の長期展望

■岸田首相が言うように21世紀前半、つまり2050年までに日本の名目GDPが1,000兆円まで拡大した場合、日本株にはどのようなインパクトがあるのでしょうか。一国の株式時価総額の合計と名目GDPとの関係を見る指標に「バフェット指数」があります。米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が投資対象国を検討する際に用いるとされているバリュエーション指標ですが、ある国に上場する全株式の時価総額の合計をその国の名目GDPで割ることで求められます。例えば、時価総額の合計が900兆円、名目GDPが600兆円であれば、バフェット指数は150%になります。ちなみに、現在の日本のバフェット指数はここもとの株価高騰により約170%に上昇していますが、米国の約198%を下回る水準にあります(図表2、いずれも今年3月末時点)。

企業のグローバル化、巨大化で上昇を続けるバフェット指数

■かつては「100%を上回ると割高」とされていたバフェット指数ですが、近年は企業のグローバル化や巨大化もあって、日米ともに同指数の上昇傾向が鮮明となっています。例えば、日本を代表する製造業であるトヨタ自動車は年間1,000万台の自動車を世界中で製造・販売していますが、日本国内向けはわずか150万台ほどにとどまります。このため、トヨタ自動車の売上や利益、そして株式時価総額は、日本経済の成長スピードを大きく上回るペースでの上昇が続いています。


■足元の日本のバフェット指数の水準である170%が今後も続くと仮定すると、日本の名目GDPが現在の約598兆円から1,000兆円に拡大した場合、日本の株式時価総額は現在の約1.72倍の1,700兆円に増加する計算になります。そして、発行済み株式数が今後も一定で推移すると仮置きすると、株価指数も約72%上昇して日経平均で換算して約68,700円(40,000円×1.72)まで上昇する計算になります。

名目GDPの増加ペースを上回る企業の増益率

■「26年もかけて約7割しか上昇しないのか」との落胆の声が聞こえてきそうですが、がっかりするのは少々気が早すぎるかもしれません。というのも、「バフェット指数が一定」と仮定することは、名目GDPと株価の上昇が同じペースで進む、ということに他ならないからです。しかし、これまでの経験則に照らせば、株価指数の上昇やそれを支える企業業績の増加は、名目GDPの拡大ペースを上回る可能性が高いからです。

3:増益ペースから考える日本株の上昇ポテンシャル

■名目GDPは国内で産み出された物やサービスの付加価値の合計ですから、企業の売上と密接な関係があります。一方、企業のコストは原材料費など売上に連動する「変動費」と、地代家賃や人件費といった売上の水準に関わらず発生する「固定費」とに分けることができます。そして、売上がある水準を超えて伸びてくると、売上一単位当たりの「固定費」が下がるため、利益率と利益額が急増することとなります。例えば、ホテルの客室稼働率や航空機の搭乗率がある水準を超えて上昇すると、会社の利益が急増するのはこのためです。

名目GDP1,000兆円の企業業績へのインパクト

■企業業績の観点から、「名目GDP1,000兆円」という数字はどれほどのインパクトがあるのでしょうか。現在の日本の名目GDPは約598兆円ですから、今後26年かけて2050年までに1,000兆円に到達すると仮定すると、幾何平均で年率約2.0%のペースで名目GDPが成長する計算となります。

■2006年以降の名目GDPと企業の一株当たり利益(EPS)の関係について回帰分析を行い、足元の名目GDPの数字を用いて試算をすると、年率+2.0%の名目GDPの成長は、EPSを約9.1%引き上げると試算されます(図表3)。


右肩上がりの上昇相場の行きつく先

■株価はEPSと株価収益率(PER)の掛け算ですから、仮にPERが一定でもEPSの増加につれて上昇する可能性が高まります。日経平均40,000円を起点に、今後26年間にわたり、年率約9.1%の増益と株価上昇が続くと仮定すると、2050年の日経平均は385,038円(40,000円×1.09126)となり、40万円の大台目前まで上昇する計算になります。


日経平均40万円という「巨大な雪だるま」

■「日経平均40万円」という数字だけをみると、現実味のない荒唐無稽なものに感じられるかもしれません。しかし、株価指数が年率9.1%のペースで上昇していった場合、5年で1.5倍、10年で2.4倍、20年で5.7倍、そして30年後には13.6倍に上昇する計算になります。「株式投資はスノーボール」と言ったのは、前出の米著名投資家バフェット氏ですが、今後、日本の名目GDPが1,000兆円を目指して拡大していくなら、長期・複利の株式投資により資産が「雪だるま式」に膨れ上がっていっても、決して不思議ではないでしょう。

  

まとめに

賃上げと物価上昇の好循環により、デフレ脱却が現実のものとなる可能性が高まっています。仮に、岸田首相が言うように、21世紀前半に日本の名目GDPが1,000兆円に達するなら、企業業績の拡大を通じて日本株は右肩上がりのトレンドを描く可能性が高まります。もちろん、こうした野心的な目標の達成には少子高齢化による人口減少など、超えなくてはならないハードルがあるのも事実です。とはいえ、「政策に売り無し」の相場格言に従うなら、「名目GDP1,000兆円」に向けた政策対応が本格化する中、この流れに逆らうことなく投資を続けていくことが大切ではないでしょうか。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

チーフグローバルストラテジスト
白木久史(しらき ひさし)

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