ホームマーケットエコノミスト・ビュー2017年 8月【日本経済】消費動向の分析②~サービス消費の持ち直しとその背景~

【日本経済】消費動向の分析②
~サービス消費の持ち直しとその背景~

2017年8月10日

  • 足元、耐久財消費だけでなく、サービス消費も堅調だが、どのような品目が増加しているのか。
  • 安定して堅調なのが医療、携帯・スマホ、フィットネスだが、加えて、今年に入り、選択的な消費の色彩の強い外食、旅行、タクシー、映画、ホテルなどが堅調である。外食では、パブ・ビアホールに加え、長らく低迷の続いていた居酒屋もプラスに転じている点が興味深い。
  • 昨年までは、雇用所得環境が堅調であったにも拘らず、国際情勢の緊迫化や資産市場の不安定な動きが消費を抑制してきたが、そうした不安が後退し、消費の持ち直しに繋がっていると見られる。

弱い、冴えないと言われてきた個人消費が足元で堅調である。GDP統計を見ると、個人消費は昨年4Qには前期比横ばいと足踏みしたが、今年1Qは前期比0.3%と増加に転じ、2Qについても、月次の消費関連経済指標の動きから判断すると、堅調な増加となったと見られる(図表1)。個人消費は大きく財とサービスに分けられ、7月5日付エコノミスト便り『消費動向の分析①~耐久財の買い替え需要に関する考察 』でも述べた通り、耐久財を中心に財消費が増加しているが、それだけでなく、サービス消費も堅調である。図表2の通り、サービス消費は変化が緩やかで趨勢的に増える傾向があるが、2015年末から2016年にかけ横ばいとなった。しかし、2017年に入り再び増加基調に戻りつつあり、消費回復に寄与している。

耐久消費財が自動車や白物家電、デジタル家電に至るまで幅広い品目があるのと同様に、サービス消費も多様である。そもそも、足元、サービス消費の中でどういった品目が堅調なのか。本稿では、サービス消費の品目ごとの動向に着目し、堅調なサービス消費の内幕を探る。

サービス消費の細かい内訳を広く把握できる統計としては、サービスを供給する側の動きを主に捉える第三次産業活動指数、サービスを購入する消費者の側の動きを捉える家計調査がある。ただし、家計調査については、たとえば世帯主の年齢別など、消費者の属性ごとの消費動向を分析できるというメリットがある一方で、調査サンプル数が少ないため、月々の振れが大きく、時系列での変化を観測するにはあまり適さない。このため、本稿では、主に第三次産業活動指数を中心に、サービス消費の動向を分析する。因みに、日本銀行の消費活動指数においては、サービス消費の指数を作成するにあたり、第三次産業活動指数や業界統計のサービス関連品目を、家計調査におけるサービス関連品目のウェイトで加重平均しているとのことである(図表3)。

第三次産業活動指数で、品目ごとの前年比の伸びを見ると(図表4)、足元で堅調なのが、外食(=飲食店・飲食サービス業)、旅行(国内、海外のパック旅行など)、医療、携帯・スマホ(=移動電気通信業)、タクシー、航空旅客運送(国際線、国内線)、映画、フィットネスクラブ、ホテルである。このうち、医療、携帯・スマホ、航空旅客運送、フィットネスについては、安定して高めの伸びで推移しており(=右肩上がり)、今年に入って伸びが高まっているのが、外食、旅行、タクシー、映画、ホテルである。いわゆる選択的な消費の色彩の強い品目だが、これらの品目の多くは2016年にはマイナスの伸びで推移していた。今年に入りプラスの伸びに転じたことで、サービス消費の回復に繋がったのだと見られる。

因みに、外食について、業界統計をもとにもう少し詳しく見ていくと、面白い動きが確認できる(図表5)。足元で好調なのはファーストフード、中でも洋風や麺類で、ファミレスについては全体では一進一退だが、焼肉が好調である。また、パブ・ビアホールも足元では堅調で、長らく低迷が続いていた居酒屋も前年比でプラスに転じた。政府の働き方改革に先んじて、大企業を中心に長時間労働是正(=残業の抑制)の動きが広がっているとの声が聞こえてくるが、余暇の時間が増え、飲み会の機会が増えているということかもしれない。これらの時間消費型消費の動向は、働き方改革が新たなプラスの需要をどの程度もたらすかの一端を示すと考えられるだけに、今後も増加基調が続くか注目したい。

上記以外のサービス消費の動向についても確認しておくと、競輪・競馬等が比較的安定して高めの伸びで推移しているほか、学習塾も比較的安定的に推移している。学習塾については、少子化で子供の数が減る一方で、子供一人あたりにかける投資は増えているということだろう。一方で冴えないのが、生命保険、理美容院、パチンコである。生命保険については、昨年1月の日銀のマイナス金利政策決定後に減少傾向が強まっていることから、低金利を受けて一部商品を販売停止にしたことが影響していると見られるが、1年を過ぎてもマイナス傾向から脱出できていない。理美容院については、人口が減少する中で、一人あたりの散髪頻度を上げる、ないし付加的なサービスの需要を高めなければ、業界全体としての売上数量は増えないという構造的な問題も影響していると見られる。パチンコについては、かつては景気に敏感なセクターと言われたが、2014年以降は右肩下がりの状況で、スマホに代替されている面もあるだろうが、規制強化、嫌煙の流れなどの逆風も強いと見られる。

それにしても、今年になり、サービス消費が持ち直してきた背景は何だろうか。雇用所得環境は昨年も堅調だったが、にもかかわらず、昨年まで消費は弱いと言われてきた。意外に思うかもしれないが、最近、筆者がその背景として大きいと考えるのが、消費者の不安心理や節約志向の和らぎである。内閣府の景気ウォッチャー調査において、ウォッチャーから寄せられた景気判断理由についてのコメントをテキストマイニングの手法を用いて分析し、キーワードの登場頻度を時系列で観測したところ、今年に入り、不安に関するキーワードや節約に関するキーワードの登場頻度が減っているのである(図表6、7)。消費回復のタイミングともちょうど平仄が合っている。ウォッチャーのコメントの中で、昨年は、年前半に熊本地震やBREXITといった災害や国際情勢に関わるキーワードが数多く登場、また株安や円高など、資産価格の変動に関わるキーワードの登場頻度も増加し(図表8、9)、これらが人々の不安心理を高め、節約志向を強めていたと見られる。昨年後半以降も、米国でトランプ大統領が誕生、今年に入ってからも北朝鮮情勢の緊張もあったが、これらに関するキーワードがウォッチャーの口の端に乗ることはBREXITより有意に少なかった。BREXITを経験したことで、国際情勢の変化に大慌てすることもなくなったということかもしれないが、資産価格の変動に関するキーワードもそれほど増えることなく、不安や節約に関するキーワードの登場が減少した(=不安や節約志向の和らぎ)。今後の国際情勢を予測することは容易ではないが、国際情勢のよほどの緊迫化や人々の不安心理を高めるような突発的なイベントが生じなければ、雇用所得環境の改善見合いで消費も底堅さを維持するということではないか。