ホームマーケット身近なデータで見た経済動向11月のトピック「12月FOMC初日発表の米CPI前年比に生じる変化の可能性に期待。物価上昇など厳しい環境下だが国内景気の拡張は続く。期待が大きい「全国旅行支援」の効果。身近なデータは、金融機関・店舗強盗の年間増加確定などの暗と、11年連続の売得金増加が確定的なJRA売上などの明に分かれる。」

11月のトピック「12月FOMC初日発表の米CPI前年比に生じる変化の可能性に期待。物価上昇など厳しい環境下だが国内景気の拡張は続く。期待が大きい「全国旅行支援」の効果。身近なデータは、金融機関・店舗強盗の年間増加確定などの暗と、11年連続の売得金増加が確定的なJRA売上などの明に分かれる。」

2022年11月2日

(急激な円安、政府・日銀は介入で対抗。9月29日~10月27日の外国為替平衡操作額は6兆3,499億円)

10月21日午前のニューヨーク市場で、ドル円レートは一時1990年7月以来約32年ぶりの安値を更新し、1ドル=152円が目前に迫った。今年の年初は1ドル=115円前後だったので、今年は大幅に円安が進み、円安の影響がウクライナ情勢のエネルギー価格の上昇と相俟って、国内の物価上昇を招いている。FRBがインフレ抑制のために積極的な利上げを進める一方、日銀は金融緩和策を続けており、日米の金融政策の違いが円安進展の背景だった。しかし、21日は152円目前の直後から円高方向に6円程度急反発した。日本政府・日銀が円買い・ドル売りの覆面介入を実施した。9月22日に実施した2兆8,382億円を超え、円買い介入額としては過去最大規模とみられる。10月24日にも介入が実施されたようだ。「外国為替平衡操作の実施状況」によれば、22年9月29日~10月27日における外国為替平衡操作額は6兆3,499億円である(図表1)。鈴木財務大臣は21日の閣議後記者会見で「急速で一方的な円安進行は望ましくない」と過度な円売りを牽制していた。その後、FRBの利上げのペースが12月には小幅になるのではという観測も出て、ドル円レートは10月末にかけ140円台後半での推移となった。

(12月13日発表の11月米国消費者物価受けた12月FOMCは要注目。大幅利上げ実施してきたFRBに変化も?)

9月米国消費者物価指数・前年同月比は+8.2%と高い伸び率が続いた。9月PCE物価指数でも+6.2%上昇とFRBの目標の+2%を大幅に上回った。11月1日~2日のFOMCでも0.75%の利上げ実施という見方が大勢だ。足元は物価動向を眺めつつ不安定なマーケットが続きそうだ。
大きく変化が起こるとすれば、12月のFOMCの可能性があろう。米国・消費者物価指数の昨年の前月比をみると、9月は+0.4%上昇だったが、10月・11月は+0.9%・+0・7%と高い伸び率だった(図表2)。その反動で12月13日~14日のFOMC初日の13日に発表される11月消費者物価指数・前年同月比は、かなり鈍化する可能性がある。消費者物価指数で明らかな上昇鈍化が確認できれば、FOMCの決定に変化が起こる可能性があろう。場合によっては市場の過度な利上げ懸念は和らぎ、株は買い戻しされやすくなり、円安にも歯止めがかかることになるかもしれない。

(「ESPフォーキャスト調査」の特別調査。7月・9月とも最大の景気腰折れリスクは米国景気悪化)

日本のエコノミストのコンセンサス調査である「ESPフォーキャスト調査」で、20年9月から奇数月に特別調査として「3つの景気腰折れリスク」について尋ねている。21年9月まで1年超にわたり「新型コロナウイルスの感染状況」が第1位だった。しかし21年11月以降は「中国の景気悪化」「原油価格の上昇」など毎回第1位が変わった。22年7月と9月は連続して「米国の景気悪化」が第1位だ。ちなみに「原油価格の上昇」は9月では第5位タイである(図表3)。

(OPECプラスは11月から日量200万バレルの大幅減産を実施。バイデン米大統領はエネルギー価格高騰対策発表)

原油価格をWTI月中平均でみると、22年は2月下旬からのロシアによるウクライナ侵攻による上昇で6月に1バレル=114.34ドルとピークをつけたが、9月には83.80ドルまで低下した。しかし、OPECプラスが10月5日の閣僚級会合で11月から日量200万バレルの大幅減産実施で合意するとWTIは買い進まれ、10月7日終値で1バレル=92.64ドルになったが、終値で90ドル台は10日までで僅か2営業日だった。米国はじめ世界経済の減速見通しもあり、その後10月は80ドル台で推移した。10月月中平均は87.03ドル、11月1日の終値は88.37ドルである(図表4)。
バイデン米大統領が10月19日の演説で、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰対策として戦略石油備蓄1,500万バレル分を放出する方針に加え、今後の追加放出や備蓄の補充に関する計画、石油会社に対する増産要請などを発表した。11月8日の中間選挙でインフレが主要争点となる中、価格抑制に取り組む姿勢を有権者にアピールする狙いだ。バイデン政権は3月に戦略石油備蓄から過去最大規模の計1億8,000万バレルを半年間かけて放出する計画を公表している。1,500万バレル放出で、この措置は終了するが、冬に向けてガソリンが値上がりする見通しのため、今後数カ月間に大幅な追加放出・売却に踏み切ることなどを表明した。

(9月の景気動向指数での基調判断も「改善」続く。総合経済対策はそれなりに景気を下支えるか)

景気動向指数で景気の現状を表す一致CIは101.8で、コロナ禍前の19年5月101.9以来の水準に戻った。一致CIを使った機械的な景気基調判断は21年9月~22年2月速報値では「足踏みを示している」だったが、生産・出荷関連データの年間補正などがあった2月改定値で「3カ月以上連続して、3カ月後方移動平均が上昇、かつ当月の前月差の符号がプラス」という「改善」に戻るための条件を満たし、直近8月改定値まで「改善」の判断が7カ月連続で続いている。景気を把握するための新しい指数(一致指数)は8月まで3カ月連続で上昇している(図表5)。
再び「足踏み」に下方修正になるには「3カ月後方移動平均の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差以上、かつ当月の前月差の符号がマイナス」という条件を満たす必要がある。9月の一致CI前月差は1ポイント幅を下回る若干の下降になるものの、3カ月後方移動平均の前月差は上昇が予測される。9月も「改善」の判断が継続となりそうだ。
物価高や円安に対応するための総合経済対策が10月28日に閣議決定された。メリハリのなさが指摘されるが、景気の下支え効果はそれなりにあるとみられる。

(9月景気ウォッチャー調査、「全国旅行支援」・先行判断DIは75.2との高水準、期待の大きさが感じられる数字に)

9月の「景気ウォッチャー調査」の現状判断DI(季節調整値)は前月差2.9ポイント上昇し48.4になったが、景気判断の分岐点50を上回っていた6月の52.9にはまだ届かなかった。新型コロナウイルス第7波の影響を大きく受けた、飲食関連現状判断DIは、6月から31.2ポイント大幅悪化した7月の30.8、8月は37.1の30台の厳しい数字から、9月は56.7に大幅改善した。内閣府の基調判断は5月・6月の「緩やかに持ち直している」から、7月は「持ち直しに足踏みがみられる」に下方修正となり、8月も同じ表現になった。しかし、9月では「持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。
20年1月から盛り込まれてきた新型コロナウイルスに関する文言は22年5月に消え、6月~9月は登場していない。ワクチン接種の効果などで新型コロナウイルスの経済への影響力が比較的小さくなり、社会経済活動が正常化に向かいつつあることが背景にあろう。新型コロナウイルス現状DIをつくると、8月43.2、9月は55.7であった。先行き判断DIは、7月42.5から、第7波が落ち着くとの判断から8月51.3、9月59.2と50超になった。一方、物価高による悪影響や米国景気など海外景気の悪影響など、相変わらず懸念材料は多い。9月の「価格or物価」現状判断DIは39.4、先行き判断DIは37.0で、先行きのコメント数は349と多い。厳しい数字である。9月の「全国旅行支援」・先行判断DIは75.2とすべての人が「やや良くなった」と回答した時の75.0を上回る高水準で、先行きでコメントした人は137人と期待の大きさが感じられる数字になった(図表6)。

(9月の全国消費者物価・前年比31年1カ月ぶりの+3%台。一方、10月日経商品指数前年比は1ケタ台まで鈍化)

9月全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合の前年同月比は+3.0%と8月から0.2ポイント上昇率が高まり、消費税率引き上げ時期を除き、91年8月分の+3.0%以来、31年1カ月ぶりの+3%台になった。多くのエコノミストが今年前半に予測していた伸び率より実際は上振れた。通信料(携帯電話)の前年同月比は9月の東京都区部の消費者物価指数で▲14・4%の低下だったが、10月では、これまで前年同月比マイナスで物価低下要因だった通信料(携帯電話)の前年同月比が+1.8%のプラスに転じた。物価上昇の波が低下要因だった通信料(携帯電話)まできたかたちだ。一方、宿泊料は9月で+6.6%の上昇だったが、10月では▲9.5%の低下に転じた。
エネルギー価格の高騰、食料品の値上げラッシュが続き、家計への負担は一段と増している。帝国データバンクの「食品主要105社」価格改定動向調査によると、10月は年内最多の6,699品目で値上げが行われた。一方、10月31日現在、11月833品目、12月は145品目が予定されている。11月は乳製品など身近なものの値上げが多いものの品目数は大きく低下する。今年の値上げの波は10月をピークに一旦は収まりそうだ。但し、来年の値上げは足元の円安を背景に既に2,000品目を超えているということで、予断を持つことなく今後の動向を注視したい。
物価指数の前年同月比は、通常は、商品指数、国内企業物価指数、消費者物価指数の順番にピークをつける傾向がある。日経商品指数17種の前年同月比は3月の+33.1%上昇がピークだった。10月は+6.0%と1ケタまで鈍化した(図表7)。国内企業物価指数・前年同月比は80年12月+10.4%以来の高水準だった4月+9.8%で直近のピークをつけたが、9月で+9.7%まで戻した。6月に遡っての上方修正も影響した。11月11日発表の10月では8%台まで鈍化することも期待される。昨年10月の前月比が+1.6%上昇だった反動が大きい。

(監視海域・基準値偏差10月上旬▲0.9℃と▲0.5℃を大幅に上回るマイナスに。ラニーニャ現象は冬いっぱい継続)

気象庁が10月11日に公表した『エルニーニョ監視速報』によると、「ラニーニャ現象が続いている。今後、冬にかけてラニーニャ現象が続く可能性が高い(90 %)」という。 9月9日の公表(70 %)より確率が高まった。 さらに「その後、冬の終わりまでに平常の状態になる可能性もある(40 %)が、ラニーニャ現象が続く可能性の方がより高い(60 %)」となっている。ラニーニャ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より低くなり、その状態が1年程度続く現象だ。ラニーニャ現象が発生すると日本では、夏は 「猛暑」になりやすく、冬は「厳冬」になりやすい。
エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5カ月移動平均値が6カ月以上続けて▲0.5℃以下のマイナスになることがラニーニャ現象の定義である。21年9月から直近の22年7月まで▲0.5℃以下のマイナスが続いている、10月上旬・10月中旬はともに▲0.9℃である(図表8)。気象庁の予測から今年の冬いっぱいはラニーニャ現象が発生している確率が高い。冬もラニーニャ現象が継続すれば、電力不足の問題はあるだろうが、冬物需要が出て消費にはプラスに働くと予測される。古くからデータがある経済産業省の商業動態統計の「百貨店・スーパー売上高(旧・大型小売店販売)」を消費者物価指数で実質化した、1981年~2022年の42年間の実質百貨店・スーパー売上高の1~3月期の前年同期比をみると、42年間の平均は+0.7%だが、ラニーニャ現象が発生している時の平均は+1.8%と伸び率が高くなる傾向がある。

(金融機関・店舗強盗は7年ぶり増加確定。1~9月刑法犯認知件数前年比増加。1~9月自殺者数前年比+1.0%)

最近の身近なデータは、明暗分かれている。8月分の実質賃金が前年同月比▲1.8%と4カ月連続下落するなど、人々の生活への不安感などが強まっていることを背景に犯罪統計などでは、悪化傾向がみられる。金融機関の店舗強盗事件は2019年13件、20年11件、21年9件と近年は減少が続いてきた。しかし、22年は1~8月で14件となり、早くも15年以来7年ぶりの前年比増加が確定している。また、刑法犯総数の認知件数は近年減少傾向で、昨年は56.8万件と前年比▲7.5%の減少だった。しかし、22年1~9月の前年比は+3.3%で、9月単月だと+15.5%の増加だと足元は増加傾向に変わった。
自殺者数の前年同月比は21年7月分~22年4月分まで10カ月連続して減少だったが、22年5月分~7月分では3カ月連続増加になった。8月分では微減になったが、9月分は増加に戻った。1~9月分では前年比+1.9%の増加である。20年以来の2年ぶりの増加になりそうな状況だ(図表9)。

(『ONE PIECE FILM RED』13週目で再び首位に返り咲き。累計興行収入が177.4億円で、歴代9位)

アニメ『ワンピース』の劇場版最新作『ONE PIECE FILM RED』が、2022年8月6日の公開から10月16日の週まで興行収入が11週連続で第1位となった。12週目は3位で、『鬼滅の刃』の12週連続には届かなかった。但し、13週目で2週間ぶりに再び首位に返り咲いた。10月30日時点で累計興行収入は177.4億円と、2022年公開の作品として最高で、歴代では8位196億円の『ハウルの動く城』に次ぐ9位となっている(図表10)。

(大相撲九州場所の懸賞9場所連続前年比増加を期待。JRA売得金10月末で前年比6%、11年連続増加へ)

一方、厳しい環境下でも景気拡張局面が継続していることを示唆する身近なデータも多い。まず、大相撲秋場所は事前の申し込み件数1,839本だったが、横綱・照ノ富士の怪我による休場などが影響し実際は1,702本になった。15日間の懸賞の前年同場所比は+24.0%と8場所連続で増加となった。1,702本はコロナの影響がほとんどなかった令和2年(2020年)初場所の1,835本以来の水準である。企業の業績・広告費の底堅さが感じられる数字と言えよう。11月13日が初日の九州場所で、9場所連続増加になることを期待したい。
JRA(日本中央競馬会)売得金は10月30日時点までの今年の年初からの累計前年比で+6.0%の増加である。累計前年比はこのところ若干もたつき感はあるものの、11年連続で前年比増加になる可能性が大きい(図表11)。

(サッカー日本代表、ワールドカップで健闘し好結果出れば翌日の日経平均株価などに好影響。ドーハの歓喜に期待)

サッカー日本代表のワールドカップの試合の視聴率は高く、国民的関心事である。日本がワールドカップ初出場を決めた97年11月イラン戦の翌営業日、都銀初の経営破綻のニュースがあったにもかかわらず日経平均株価は1,200円80銭高であった。また、18年ワールドカップでコロンビアに2対1で勝った試合は視聴率が48.7%と歴代10位に相当し、翌日の日経平均株価は276円95銭高と3ケタの上昇になった。

22年の日本代表の試合では、2点差以上で勝利し翌日に株式市場が開いた日は5試合だが、翌営業日に日経平均株価が3ケタ上昇(東アジアE-1選手権の1試合のみ99円73銭高)している(図表12)。ワールドカップ・カタール大会では、日本は1次リーグで死の組と言われるE組に入っており、ドイツ、コスタリカ、スペインと対戦する。強豪チーム相手であるが、史上初の8強以上を目指す森保ジャパンの健闘次第で景気・株価に好影響を及ぼそう。「ドーハの歓喜」に期待したい。

 

(2022年11月2日午前9時現在)