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円安とインフレで改めて考える「国際分散投資」のメリット
世界はほしいモノにあふれてる?

2022年6月10日

1.「生活防衛」としての海外投資

2.国際分散投資の魅力「世界はほしいモノにあふれてる?」

3.ロールモデルに学ぶ国際分散投資

為替市場での円安傾向を背景に、個人マネーの海外志向は強まるばかりです。こうした円安により、海外資産の円で見た価値が上昇することは、外貨建ての資産に投資している人にとっては喜ばしい限りですが、「短期の為替損益」に気を取られていると、海外投資の本当のメリットを取り損ねてしまいかねません。


そこで本稿では、海外投資のメリットについて、中でも長期的な視点で行う「国際分散投資」が私たちの資産形成にもたらすメリットについて、整理してみたいと思います。

   


1.「生活防衛」としての海外投資

わたしたちを襲う未曽有のインフレ

■資源・エネルギーや食品価格の上昇と円安が同時に進んだことで、インフレがわたしたちの生活を直撃しています。4月の消費者物価指数(CPI、総合指数、前年同月比)は+2.5%となり、1997年及び2014年の消費税引き上げの影響を除くと、1991年12月以来の実に30年ぶりの高水準となりました。


■私たちはエネルギーの約88%(2018年時点、資源エネルギー庁調べ)、食品の約63%を輸入に頼っています(2020年時点、カロリーベース、農林水産省調べ)。このためCPIのエネルギー価格は4月に前年同月比で+19.1%、食品も同+4.0%の上昇となり、若年層を中心に多くの人にとって未曽有の高インフレとなっています。

■世界では、これまでも経済成長や収入の増加を伴う生活水準の向上につれて、物価が着実に上昇してきました。一方、日本では、かつては長らく続いた円高が、そして近年は消費者の強烈な価格志向やそれに応えようとする企業の合理化努力などにより、インフレを抑え込んできました。しかし、このところの急速な円安や世界的な一次産品の急騰が、こうした「日本固有のデフレ要因」を一気に吹き飛ばしかねない状況にあります。


■わたしたちは日本で生活を続ける限り、円で生活費を支払い続ける必要があります。このため、例えば老後の生活資金が為替変動により大きく目減りしてしまうことがないよう「資産形成も円で行わなければ」と考えがちです。しかし、最近の円安で浮き彫りになったのは、「表向きの支払いは円だけれど、その実体(コスト)は米ドルなど外国通貨に連動しているものが少なくない」という現実です。

   


インフレと円安による資産の目減りを食い止めるには?

■2011年3月末からの約10年間、日本の個人金融資産は1,559兆円から2,023兆円へと約30%増加しました。一方、この間、日本と海外との成長力格差や円安から、私たちの円の価値はどんどん失われてきています。このため、貿易量や物価を加味して「円の実力(購買力)」を測る実質実効為替レートは、約32%下落しています。この「円の実力」を加味して海外から見た日本の個人金融資産を計算すると、10年前と比べて約11%減少していることになります。


■こうした「海外発のインフレ」や「円安」から私たちの生活を守る一つの方法として、最近関心を集めているのが「海外投資」です。


■日本では、今後も人口減少などから高い経済成長を期待することが難しい一方、人口が増加する新興国や米国などでは今後も順調な経済成長が続きそうです。こうした日本と海外の成長力格差が埋まらない以上、更に円安が進むようであれば、「生活防衛」のために金融資産の一部を海外資産で保有することの重要性は、今後ますます高まっていきそうです。

2.国際分散投資の魅力「世界はほしいモノにあふれてる?」

■「生活防衛」もさることながら、海外投資の最大のメリットは「日本では見つけることが難しい投資機会」が豊富にあることです。そして、長期的な視点から海外資産と国内資産とでポートフォリオを組むことで、リスクリターンを改善し、長期の資産形成を有利に進めることが期待できるのです。

 


日本にはない成長性や多様性

■低成長が続く日本をしり目に、世界経済は長期的に見れば順調な拡大を続けています。その背景には、労働生産性(一人当たり実質GDP)の向上と、人口の増加があります。このため新興国や、先進国でも米国やオーストラリアのように今後も人口増加が期待される国々では、引き続き順調な経済成長が続くと予想されています。海外投資の第一の魅力は、こうした「世界経済のダイナミズム」に投資することができることにあります。


■成長性と同じぐらい魅力的なのは、日本にはない多様な投資対象が豊富にあることです。株式を例に取れば、「掘削コストの安い巨大油田を持つ資源メジャー」、「線幅2ナノメートルの最先端半導体メーカー」、「検索エンジン、ネット広告、ネット通販などを世界で展開する巨大プラットフォーマー」、「ソフトから半導体まで内製する電気自動車メーカー」、「欧州の大規模再生可能エネルギー企業」など、多種多様で魅力的な投資対象が目白押しと言ってよいでしょう。


■また、アセットクラスも様々です。信用度は低いけれど高金利の社債に投資する「ハイイールド債」、途上国の発電所や高速道路に投資する「インフラ投資」、社会問題の解決に貢献する「インパクト投資」、非上場企業を買収して高いリターンを目指す「プライベートエクイティ」などなど。こうした、日本では仮に存在しても流動性の問題から投資が難しいようなアセットクラスが、海外では豊富な流動性とともに存在しているのです。

  

まさに、世界はほしいモノ(日本にはない投資機会)にあふれてる、といえそうです。

  


「国際分散投資」の効果

■こうした多様性を資産運用に取り込む最大のメリットは、投資の「分散効果」が期待できることです。「国際分散投資」と呼ばれる所以で、値動きにばらつきがあるリスク資産を組み合わせることで、同じリスク水準であればより高い期待リターンのポートフォリオを組むことが可能になります。こうした「国際分散投資」を長期・複利で行うことで、資産形成はぐっと有利に進めることができるようになります。


■具体的に見てみましょう。日本株に100%投資するポートフォリオの過去20年間の平均リターンは年率7.5%、標準偏差(平均からの散らばり)でみたリスクは21.8%になります。この日本株ポートフォリオの25%を外国株にふりかえると(年1回リバランス、以下同じ)、ポートフォリオのリスクは21.8%と同水準ですが、期待リターンは1%改善し8.5%まで引き上げることができます(右チャート、国際分散投資の効果その1)。

■また、日本株60%・日本国債40%に分散投資するポートフォリオの期待リターンは5.1%、同リスクは12.9%ですが、ポートフォリオの資金を日本株、外国株、日本国債、外国国債にそれぞれ25%ずつ分散投資すると(国際分散ポートA)、リスク水準はほぼそのままに、期待リターンを6.3%まで1%以上改善することができます。


■そして、ポートフォリオの分散を更に進め、日本株20%、日本国債30%、外国株20%、外国国債15%、米投資適格社債5%、米ハイイールド債5%、グローバルREIT5%の資産配分とすると(国際分散ポートB)、リスクは同じく12.9%ですが、期待リターンは更に1%改善し7.3%まで引き上げることが可能になります(右チャート、国際分散投資の効果その2)。

3.ロールモデルに学ぶ国際分散投資

■長期の資産形成がぐっと有利になる「国際分散投資」ですが、わたしたちの身近にもこの「国際分散投資」を実践している、お手本ともいうべき「ロールモデル」があります。それは、わたしたちの厚生年金や国民年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。


■現在GPIFでは、運用資産の半分を国内(日本株25%、国内債券25%)に、残り半分を海外(外国株25%、外国債券25%)に分散投資することで、リスクを押さえながらリターンの向上に取り組んでいます。

 


もしもGPIFと同じように運用していたら?

■GPIFは2020年4月に現在の「積極的な」国際分散投資に移行しましたが、それ以前も比較的保守的な国際分散投資を実践してきました。日本では1990年代後半以降「失われた20年」といわれ、投資家は低金利とデフレに悩まされてきました。こうした環境下、GPIFは2001年度以降の約21年間、年率+3.79%の累積リターンをあげてきました(2021年12月末現在)。


■日本の個人金融資産は、この10年余りの間に3割しか増加していないのは先に見た通りですが、これはリターンを生まない「現預金の保有比率が高すぎたため」とも言われています。あくまでも机上での試算にすぎませんが、仮にこの間、国際分散投資を実践するGPIFと同じような資産運用を実践していた場合、資金追加がなくても日本の個人金融資産は1.9倍の約3,000兆円まで増加していた計算になります。

■先に見たように「円の実力」を加味した日本の個人金融資産は、10年前と比べて約11%減少しています。しかし、GPIFと同じ国際分散投資を実践していた場合、運用リターンが購買力の低下(約▲32%)を大きく上回るため、個人金融資産は実質実効為替レート考慮後でも同期間に約31%増加していた計算となります。

  


まとめに 国際分散投資 「使用上の注意」

国際分散投資のメリットは、短期的な為替差益よりも、①わたしたちの資産の「購買力」を維持し、②日本国内では見つけることができない投資機会に参加し、③分散効果でポートフォリオのリスクリターンを改善する、この3点にあります。そして、こうしたメリットを実感していただくためには、短期の為替変動に一喜一憂せず、じっくりと腰を据えて長期・複利の投資を実践することが何より重要になります。


とはいえ、国際分散投資を始めるに当たっては、1つ注意すべきことがあります。それは、世界経済や金融市場が変調をきたす、いわゆる「リスクオフ」の局面では、株式などの「リスク資産の下落」と「リスクオフの円買い」がダブルパンチとなり、短期的に保有資産の価値が大きく目減りするリスクがあることです。


こうした局面で動揺して急に運用方針を変えてしまったり、慌てて手持ちの資産を売却してしまうと、国際分散投資のメリットを受けることが難しくなるだけでなく、経済的に大きなダメージを負いかねません。


このため、国際分散投資を始めるにあたっては、短期的な市場の変調をやり過ごし、気長に投資を続けられる「リスク許容度」を見極めることが重要になります。具体的にはどれぐらいのストレス、保有資産の下落に「精神的、経済的」に耐えられるのか、イメージを持つことが大切と言えそうです。

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